ゆらり・・・高灯の炎が揺らぐ。
忠行の命がこの世を去る時が近づいていた。
延命の祈祷も祓いもいらぬと家人も保憲も遠ざけていた。
陰陽頭に保憲は就任し賀茂家はこれから先も継いで行くことが可能になった。
何の憂いがあろうか・・・忠行は穏やかであった。
ゆらり・・・炎がまた揺れた。

「賀茂家は滅びまする。」
枕元で突然声がした。
「!・・」
首を動かすこともまま成らない忠行の横に一人の男が佇んでいた。
「そなたは?・・・誰か?」
掠れた声で問い掛けてみる。
ふ・・っと男が笑った気配が感じられる。
「お解りになられませんか。」
忠行は記憶の底を辿って見る。
「何故?賀茂家は滅びると・・・。」
「私が喰らうからですよ。」笑いを含んだような声が答えた。
「そなたは・・。」
記憶の底の何処かにこの男がいるような気がする。
「見つけられませぬか。」
男の笑いに嘲りが混じったように思える。

「何故あなたはあの時私を討たなかったのでしょうな。」
男の声に忠行の遠い記憶が蘇る。
「晴明か?」
「あなたは解っていた筈です。私の中の鬼を・・」
男は忠行の問いには答えずに話を進めていく。
「鬼になったら迷わず討てと申し上げた筈・・それを・・あなたは見逃した。」

「保憲・・」忠行が呟く。
「保憲様は今頃捕まえる事が出来ない者を追いかけておりますでしょう。」
男の声が冷たく答える。
「蛍は・・」
「喰らいました。」
男は世間話をするように穏やかに答えた。
「元々あれも・・・私でございますから。」

「そうか。」
忠行は目を閉じた。
このような話を聞かされても対処のできるほど忠行には気力も体力も残されてはいなかった。
「賀茂家は滅びる・・のか。」
誰に言うとも無く忠行は一人声にした。
「あの時に討っておけば良かったと・・お思いですか。」
「いや・・」忠行はわずかに首を振った。
「それもこれも時の流れよ・・な。」
忠行は穏やかに答えた。
ふっと・・唇の端に笑みを浮かべて男が立ち去ろうとする気配がした。
「これが今生の別れか?。」
忠行は男に声を掛けた。
「そのようでございますな。」
去っていく男の背中に忠行は訊ねた。
「これからそなたはどこへ行くのだ。」

「龍神村へ・・」
男の声が小さく聞こえる。
「・・・そうか。」

ゆらり・・・炎が揺れて消えるとあたりは漆黒の闇

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