ジジッ・・・灯明の炎が不安定に揺れている。
どうやら夜半のようである。
書物を広げて熱心に読んでいる己がいた。

・・・誰かなど当てには出来ぬ。・・・
いやと言うほど思い知らされた後の日からこのような習慣が途切れることなく続いていた。
己の身は己の力で・・・もっとも・・・
「生きていなければ成らぬ理も無い・・か。」
苦笑いを浮かべながら宙に視線を泳がせている己がいた。

あの日以来 蛍は有ろう事か宛がわれていた一室の入り口に結界を張った。
己が持っている有らん限りの強力な結界である。
それは保憲でさえ潜る事も出来ず忠行が蛍に声を掛けてやっと潜れるほど強力であった。

・・・何が起きたのか・・きっと解らないのであろうな・・
ふっと唇の端に小さな笑みを浮かべながら書物に目を落とす。

どれ程の時が過ぎたのか・・・
ふとすぐ傍に何かが居るのを感じて視線を上げた。

・・・あの時の・・・
肉は喰らわぬと言った男が穏やか視線を蛍に向けて立っている。
「おまえ・・どうやってここへ。」
蛍が許可しなければ誰人たりとも入ってこられない筈・・
男は先日と同じようにズイッと蛍に顔を寄せてきた。
思わず後ろに身を退く。
「不思議か?」男が囁くように声を発した。
「喰らいに来たのか。」
「覚えておらぬか。肉は喰らわぬ。」
男の顔に僅かばかりの笑みが浮かんでいる。
「別に喰らっても構わぬぞ。」
言ってから想像してみた。
・・・もしこの部屋で俺が喰らわれたら・・さぞあの二人は驚くだろうなぁ・・・
いやっ・・と蛍は首を振る。
・・・陰陽師の頭の屋敷で喰らわれるとは・・なんと面倒な事をしてくれたものだ・・・だな

「何を考えている?」
男の声に想像から開放された。
「ふん つまらぬ事だ。」
・・そうだ!何故この男は部屋には入れたのだ・・・

蛍の視線を正面から受け止めた男がぼそりと言う。
「おまえが許可しているからだ。」

「許してなどいない!」思わず声が高くなる。

男は慌てるでもなく蛍の頬を両手で挟むとゆっくりと話しかけてくる。
「良く見ろ。」
蛍の視線をしっかりと男の目が捕らえる。
「思い出せ 記憶の奥を探ってみよ。」
蛍は己の記憶を弄った。
「先日は喰らわぬと言ったが今この時におまえが持つその稀有な魂 喰らっても良いか。」
まるで木の実でもねだる様な気安さで男は囁く。
その間も蛍は記憶をたどる・・・奥へ奥へ・・・


「!!」
弾けるように何かにたどり着いた。
男の笑みが深くなる。
「喰らうぞ。」
男の顔が蛍に被さるように近くに寄った。
「蛍は眼を閉じて呟いた。

「あぁ・・構わぬ。」
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