保憲は歩いていた。
何処へ向かっているのか己でも解らぬままに歩を進めていた。
視線の先に後姿を見せて歩いていく者がいる。
一つに束ねられている黒髪が揺れていた。

・・・・あれは誰なのか?・・・

保憲は歩を進めるのが早いと言われているのだがそ前を行く者との距離が近づいたように感じられなかった。

・・・己が見知っている者のような気もする・・・

「待たれよ。」
保憲は前を行くものへ声を掛けた。保憲は声も大きい。
声は届いている筈なのだが振り向く気配もない。
さらに歩を早める保憲・・・
「待たれよ。」
声を掛けながらも歩を進める。相変わらず距離が近づいたようには見えない。

・・・・あれは・・・・
意識の中で何かが弾けて記憶の扉が開くのを感じる。
・・・蛍か・・・
そう思ったと同時に前を行く者がチラッと振り返った。
「蛍!」
振り返った者の面は常日頃馴染んでいる蛍であった。
「何処へ行くのだ?」
安堵した保憲が声を掛ける。
ふっと笑みを浮かべた面は保憲に背を向けてまた歩き出す。
「何処へ行くのだ。」
そう言う保憲自身 己が何処へ向かっているのかわからずに歩を進めている。

蛍の姿が朧に成っていくように見える。
距離は広がったままだ。
朧の影がいつの間にか女人に姿を変えて歩いている。
・・・・あれは 俺が初めて蛍と出会ったときの・・・
保憲がそう考えたとき再び蛍の姿が変化する。
・・・あれは 誰だ・・・
女童となった蛍を見つめてじっと記憶の襞を書き分ける保憲。
・・確かに見たことがある。 どこかで見たことがある・・・
保憲の記憶がそう伝えてくるのだが思い出すことが出来ない。
牴牾しさに頭を振る。

いつの間にか女童の傍に一人の男が寄り添っている。
「誰だ。」
保憲の声に前を行く二人の歩が止まった。
・・・この男も知っている・・・
記憶が保憲に囁いてくる。
・・・知っているはずなのに何故思い出せないのだ・・・
前の二人から視線を外す事ができないまま立ち尽くす保憲の前で二人が重なり合うように一つになり・・・やがて保憲の前から消えた。
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