夏も終わりを告げようとしている夕暮れの事
三人は鴨川の畔に立っていた。
「今日は先斗町辺りにでも・・・」と探偵長が言ったのがきっかけでこうして出かけて来たのだった。
川辺の風が気持ちよく昼間の暑さが少しだけ和らいだように感じる。

「でも・・・」と高峰悦子が言った。
「先斗町って結構新しいのですよね。」鴨川を見ながら言葉を継いだ。

この町は江戸時代に行われた護岸工事によって生まれたと言う。
元々は鴨川の「洲」だった所である。

ふっと探偵長の唇に笑みが浮かんだ
「確かに応仁の乱の後の事だね。」
生粋の京都人である高嶺悦子の論によればこの乱より後の出来事は新しい物と言う事らしい。
「高瀬川を知っているかい?」
探偵長がペンギンに訊ねた。
「はい 。 高瀬舟を図書館で読んできました。今でもその川が有るのでしょうか?」
ペンギンが小首を傾げながら答える。
・・・・ほう・・・そのような本まで揃っているのはなかなか・・・・・
探偵長は少々感心しながらペンギンに高瀬川は今でも有ると言うことを告げた。
「そうなんですか・・・あのお話は切なかったです。」ペンギンは探偵長を見上げながら言った。

「その高瀬川とこの鴨川の間に出来たのが先斗町と言う事になるんだよ。」

「先」と言う意味のポルトガル語から来たとか色々と説があるこの町の名前を「ポント」と読むのは面白いし「ポン」に「先」と言う文字を当て嵌めたのも興味深いっと話は進む。
町の発展と工事の進展によって先へ先へと町が大きくなって行ったのではないか・・・

「さてっと・・・少し歩いてみようか。」
探偵長がそう言って二人を促した。

先斗町にはいくつもの路地がある。
幾つもの店が並ぶが華やかな看板が出ているのではなく店先に掲げられた提灯の赤い光がほんのりと道を照らしているのが艶っぽいとペンギンは思った。
僅かな風に提灯の赤い光がゆらゆらと揺れるて何やら幻想的な雰囲気が・・・。

高嶺悦子は自分達の前をチョコチョコと歩くペンギンに視線を投げた。
・・・・なんか・・・消えたように思ったんだけど・・・・気のせいかしら・・・
高嶺悦子がそう思ったとき目の前のペンギンの姿がふっと消えた。
「えっ?」
見直すと自分達の少し前にペンギンの姿が現れた。
チョコチョコと走るように歩いている。
探偵長が何か自分に話しかけたように思うが頭の中はペンギンの事でいっぱいになって探偵長の声が理解できない。
ふ・・・っとまたペンギンが消える。
「えっえぇぇえ!!」 高嶺悦子は頭を振った。

「どうしたの?」
探偵長の声がやっと頭の中に入ってきた。
「あの・・・ペンギンさん。消えてませんか?」
自分の頭がおかしくなったのではないか?と不安になりながら探偵長に聞いてみる。
「そこにちゃんといますよ。」
探偵長が視線だけで高嶺悦子に答えた。
確かに目の先にペンギンは歩いている。
「そうですよねぇ。」
高嶺悦子の脱力したような声に探偵長が笑った。
「きっと・・・犯人はあれだと思うよ。」
探偵長が指し示すのは店先で揺れている提灯の灯。
「あぁ。」
高嶺悦子はやっと納得できた。

提灯の灯は遠くまで照らす事はない。
周りだけうっすらと明るく見える。
これが幾つも並んでいるからのこの風景なのだ。
それが風に揺れて・・・・ペンギンの身体の黒が闇に溶けると言う事・・・・
「なんだ。そう言う事か。」よく考えれば不思議でも何でもないっと一人苦笑を浮かべた高嶺悦子の頭の上で探偵長の声がする。

・・・・先斗町マジック・・・・これが京都

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