穏やかな朝のこと。
珈琲の香がこの事務所の中に漂っている。
高嶺悦子がカップを二つ持ってテーブルに近づいてきた。
「どうぞ。」
ペンギンの前に差し出す。
「あっありがとうございます。」
上目遣いで見上げながらも嬉しそうにペンギンの手がカップに伸びた。
ソファの前には階段状の踏み台・・・どうやら子供用に作られた玩具の類らしいのだがこれが無いとペンギンはソファに腰掛けられない。
探偵長が気を利かして購入してくれたものだ。
シックな事務所の中でそこだけが妙に華やかで・・・はっきり言って浮いている。
今日は探偵長は留守である。

「ねぇ?」高嶺悦子が話しかけてきた。
「なんですか?」
「探偵長が何処へ出かけているか知ってる?」
「いいえ・・・管理はあなたの仕事でしょう。」
一ヶ月の契約と言っていたが期間が過ぎてもそのまま高嶺悦子はこの事務所にいる。
契約を延長したのは探偵長。
彼女の仕事が気に入ったのだろうか。
「だいたい・・・以前の出張にはあなたが一緒に行ったではないですか。」
ペンギンは以前の事を思い出しながら言った。
「私は一人で留守番だったのに・・・」以外に引きずるタイプのようだ。
「そうなのよねぇ。」
ペンギンの当てこすりを気にするでもなく高嶺悦子は肩を竦めた。
「それなのに・・・さ。この所一人で出かけちゃうじゃない。」
「確かにそうですね。」ペンギンも肯く。
「何かこっそりとやっているんじゃないかなぁ。」
両手でカップを包んであらぬ方向へ視線を向ける。
「こっそりって・・・」ペンギンが小首を傾げた。
「あなたさぁ。」高嶺悦子の顔にふいっと笑いが浮かぶ。
「宇宙から来ているのが自分だけだと思っているわけ?」
「はぁ?そんな事は無いですよ。」
「じゃぁ。あなたが知らない宇宙人がいても不思議は無いわよね。」
・・・・いったい何を言いたいんだろう・・・・・・
「だからさ。」高嶺悦子の顔が近づく。
思わず身体を逸らしながらペンギンは首を振る。
「探偵長が本当に京都の人だって言えるのかって事よ。」
「まさか!!何を言っているんです。」
・・・・子供の頃の話も聞いたことがあるし学生時代の体験も聞いた・・・・そもそもこの事務所だってその時の経験を生かそうとして・・・・
「それが本当だって言える?」
高嶺悦子の脳の中では何が起きているのだろうか。
「何か変なことでもありましたか?。」
ペンギンの地球経験はかなり乏しい。
気が付かない事で変なことがあったのだろうか?と思う。
「だから・・・。」
高嶺悦子の声が小さくなった。
「ここは・・・協定を結んで・・・」
「はぁ?」

主のいない事務所の中。
何がどうしたのか全く解らないペンギンに向かって高峰悦子の話が続く。


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