事務所のドアを開けようとした高峰悦子の手が止まった。
「駄目です!」
ペンギンのうろたえた声が聞こえてきたから・・・
「一度だけで良いから・・・」これは探偵長の声。
「ぜぇ~~ったいに駄目です」
・・・・何の事なのか?・・・ドアの外で高嶺悦子は耳を澄ます。
「ねぇ 一回だけ・・一回だけで良いから・・。」
探偵長の焦れたような声に恐る恐るドアを開ける。
高嶺悦子の目に飛び込んできたのはペンギンの肩に両手を掛けている探偵長と必死で後ずさるペンギンの姿だった。
・・・これは・・・高嶺悦子の頭に血が上った。

ツカツカッと足音も高く近づく。
「このぉ!いたいけな子供に何をしてるんだぁ。」と手にしたバッグを探偵長の頭に振り下ろした。

ドカッ!!
激しい痛みと共に目の前が真っ暗になった。
「探偵長!大丈夫ですか?」遠くから声が聞こえる。
・・・大丈夫・・・んな訳ないだろう・・・っと思う間もなく目の前の世界が反転した。

「ま~ったく 何を考えたのですか。」
頭の上に冷やしたタオルを乗せられて痛みに耐えながら探偵長は言葉を継いだ。
「すみません。ってっきり・・・。」
高嶺悦子が申し訳無さそうに頭を下げている。
「それに・・・」っとペンギン。
「私は子供では有りませんから・・・」 突っ込み所は其処ではないだろうっと探偵長は思うのだが話がややこしくなるので無視を決め込んだ。


高嶺悦子が事務所に来る前の事
探偵長とペンギンは平安京について話し合っていたのであった。

平安京の内裏は時代と共に東へと移動している。
その為都が出来たときに中央であった朱雀大路は今ではかなり西側と言う印象になってしまった。
都を護るために建てられた東寺と西寺・・・西寺は跡形も無くなったが東寺は健在で今も京都のシンボル的存在になっている。
この東寺も今では「御所」と呼ばれる場所よりかなり西に位置している。
原因は解っているっと探偵長は言った。
元々この地は湿地帯であった・・そのほかにも理由はあるのだろうが結果として内裏は東へ移動せざるを得なかったのだと・・・
「今でもその痕跡を確認する事はできるよ。」
探偵長はペンギンに説明をしていてふと或る考えが頭の中に浮かんだ。

「駄目です!」 その考えを察知したようにペンギンの声が上がった。
まさにその瞬間に高嶺悦子がドアノブに手をかけたと言うことなのだった。

「本当になんと言ってお詫びをしたら・・・」悦子は小さくなって頭を下げている。
「もう終わった事だから気にしないで・・・」
苦笑いをしながら探偵長は改めてペンギンに目を向ける。
「・・・で?一度だけで良いから。」
「駄目です。」ペンギンがふるふると首を振る。
「そもそも・・あれは一人乗りです。」ボソッとペンギンが言う。
「だから・・・一度だけ貸してくれないか?」
「あなたが一人で使うと言うのは無謀です。何かあったら私が叱られます。」
「絶対に間違わないよ。私は機械には強いんだ。」 
ペンギンの気持ちが少し揺らいだことを敏感に察知した探偵長は言い募る。
「もし・・・万が一の事があったら私が帰れなくなります。」
ペンギンが小さな声で言った。
・・・その時は地球に永住してしまえば・・・っと口に出しそうに成るのをグッと飲み込んだ探偵長。
「間違わないように細心の注意を払うから。当時の湿地を確認したらすぐに戻る。・・・だから一度だけ」
・・・もう一押し・・・っと探偵長はペンギンの前で手を合わせてみる。
「私を拝まれても・・・」ペンギンの顔に明らかな戸惑いの表情が浮かんだ。

「はは~ん」高嶺悦子は全てを理解した。
要はあの「時を超えるあれ」に探偵長は乗りたいのだ。・・・

「すぐに戻ってきてくださいよ。」渋々ペンギンが折れた。
「いやぁ!!そうかい?貸してくれるかぁ。」説き伏せたと確信した探偵長は満面の笑みを浮かべる。

それから暫く何やら説明を受けている探偵長の真剣な顔・・・
なかなかこんな表情は見られるものではないっと高嶺悦子はチラチラと何度も見返していた。

「それじゃぁ。」
何とも爽やかな声を残して探偵長が事務所を後にした。
・・・ふぅ・・・・・
ペンギンのため息が聞こえる。
別に空を飛んで行くわけでもないのだが何となく高峰悦子は空を見上げた。
「戻ってきてくださいよ。」
「あの探偵長のことだからケロッとした顔で戻ってくるわよ」
高嶺悦子は微笑みながら脇にいるペンギンの頭を撫でた。

「ですから・・・私は子供では有りませんって。」
・・・そうだった。でも・・・
悦子の顔に新しい玩具を見つけた子供のような笑いが深くなっていく。


お昼を過ぎたころすっきりとした顔つきで探偵長が戻ってきた。
「ご無事で・・・。」
ペンギンの目がウルウルしているのが微笑ましく高嶺悦子の顔にも笑みが浮かぶ。
「いやぁ 楽しかった。百聞は一見にしかずって本当だねぇ。」
探偵長はご満悦であった。
「あの・・・他には行かなかったですよね。」
ペンギンが訊ねた。
「うん?・・・あぁ。」探偵長の歯切れが急に悪くなった。
「他へ行った・・・んですね。」ジトッとペンギンが見上げる。
「まぁ・・・その・・何だな。。」
「どこへ・・・約束をしたではありませんか。」
ペンギンの声が震え始めた。
・・・まぁ探偵長の好奇心は人一倍すごいものねぇ・・・・
高嶺悦子は心の中で言ってみる。
「船岡山の上へ・・少し・・・ホラッ平安京の中心はあそこだって言うから・・」
しどろもどろに成りながら言い訳をしてみるがペンギンはすねたようにそっぽを向く。
「だけど・・・なんで解った?」

ここ数年UFOブームである。
そして船岡山にはUFOが出るっと評判だ。
そんなところへ他の星のものが来ているという話は聞いていない・・・
だからUFOが良く出るっと言う事は・・・・そう言うわけだ。

「もう絶対に貸さない。」と決意するペンギン。
「こんな面白い体験は他では出来まい・・・さて次はどのように泣き落とすか・・・。」と良からぬ事を考えている探偵長。
この勝負の行き先や如何に。



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