穏やかな陽射しが降り注ぐ午後のこと。
賀茂の屋敷の東の対から保憲と晴明の笑い声が聞こえてくる。
賀茂保憲は十四歳安倍晴明は十歳になったばかりである。

庭を巡って主の忠行が姿を見せたのはそんな時のことであった。
「師匠様 。」「父様。」
二人は立ち上がって頭を垂れた。
穏やかな笑みを浮かべながら忠行が二人に歩み寄る。

「今日は大納言様から菓子を頂いたのだ。」
忠行は菓子が大の好物である。
嬉しそうに懐をポンポンっと叩く。
「それは良ぅございました。」
保憲は嬉しそうに微笑む父親の顔に視線を向ける。
「せっかくなのでな・・保憲 晴明・・・。」
濡縁に腰を下ろすと忠行は二人を交互に見つめる。
「共に食そうではないか。」と忠行。
「とんでもありません。師匠様のお好きなものでございます。頂くわけには参りません。」晴明がその場を立ち去ろうとした。
「まぁ 構わぬよ。皆で食せば美味しさも増すと言うもの。」
忠行が鷹揚に言って晴明の手を掴んで引き止めた。
この時代 甘味は貴重品であり容易く手に入るものではない。


「随分と楽しそうではないか。」
突然声がかる。
辺りの空気が一瞬にして冷えたように感じる。
声の主は賀茂家の人間ではなかった。
「道満!」保憲の表情が強張る。
芦屋道満・・・かつて忠行と共に陰陽道の研鑽に励んだ事もある男であった。
「今頃ここへ何をしにやってきたのだ?」忠行の顔に不振そうな表情が浮かぶ。
「ふん。 お前だけこのように穏やかな時を過ごさせるのは少々気に食わんのでな。」
道満が嘯くように答えた。
「今日は丁度良いのでおまえの大切なものを奪ってやろうと思っておる。」
道満の声に保憲と晴明が忠行を庇うように前へ出た。
その二人を遮るように忠行が前に出る・・・
その瞬間 道満の右手が素早く忠行に伸びた。

「あっ!!あ~~!!!。」
忠行の悲痛な声が響く。
道満の右手には大納言から貰ってきた菓子の包み・・・

パクッ

道満は包みを開くと菓子を口に放り込んだ。

「そっそれは・・・。」
忠行が悲しげによろめいた。

「ふん 暇つぶしよ。」

道満が笑った。
二人の幼い弟子は茫然自失
忠行は空になった包みを空ろな瞳で見つめていた。
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