寒さが厳しくなったころの事でございます。
都から何人もの武人たちが東国へと向かう事となったのでございました。
東国までの道のりは遠くその間に数多くの土豪たちも都の武人と道を同じくしたとの事でございました。
東国で兵を挙げた平将門を討つ為でございます。

東国での争い事は元々は内輪もめであるっと都では考えておりました。
それが一転して帝への反乱と思われるようになったのは将門が「新皇」と名乗ったのがきっかけでございます。
一人の巫女の宣託によってと伝えられておりますがこの巫女がどのような経緯でこのような宣託をしたのか・・詳しいことは解っていないのでございます。
新皇と名乗ってからの将門は連戦連勝を重ね東国一体を束ねたそうでございます。
都から出かけた数多くの武人・東国に点在していた土豪たちは何度も将門に挑んだのでございますが悉く敗退したのでございました。
騒然となっている都から旅立って勇猛果敢に戦いを挑んだのが「藤原秀郷」様でございます。
瀬田唐橋に住んでいた龍神の願いを聞き入れ大百足を退治したと言われるお方でございます。

都でも調伏の祈祷が寺院・神社で行われ陰陽寮でもこうした対策に忙しない日々を送っていたのでございます。


それから幾日が過ぎましたでしょうか。
賀茂の屋敷では忠行様が明将に学を伝えておりました。

「ん?」
何か違和感を感じた忠行は目の前に座している明将に視線を向けた。
いつもスッと背筋を伸ばし真直ぐにこちらを見ている明将の姿が前に傾いでいるように見える。
「明将?」
忠行は声をかけてみたのだが返事はない。
「明将!!」
忠行は腰を上げて明将の肩に手を置いてみる。すると・・
何の抵抗も無く明将の体が崩れ落ちて来たのである。
「誰かあるか」
忠行は人を呼んだ。
そこへ通りかかったのが保憲であったのは幸なのか不幸なのか・・
「父様 いかがなさいました」
「明将をそこへ」
「奥へ連れてまいりましょうか?」
「ここで良い。少し気になることが有る」
忠行の言葉に従って保憲は崩れ落ちたままの明将をそっと抱えるようにして床に横たえた。
その時保憲は微かに神草の香を嗅いだ気がしたのである。
「感じるのか?」
忠行は保憲に問う。
「はい 僅かではございますが神草の香が・・」
「やはり・・な」
忠行と保憲はじっと明将に視線を送る。
ぼぅっと陽炎が立ち昇ったように明将から幼い姿が浮かび上がってきた。
女童のようである
「桔晴?」「こはる?」
さすがに二人はこの異変にも騒ぐような事は無かったが驚きは隠せなかった。
------なるほど これが父様が私にこはるを娶らせなかった理由か-----

これは保憲の心の中の声でございます。
このお話は別の機会にいたしましょう。
さて・・今はこの異常事態を進めることと致します。

「兄様」
声が聞こえる。
幼い桔晴の声ではない。
「桔梗か?」
忠行が空に向かって声をかける。
「兄様 さようでございます。
都を護る為桔梗はこの者を受け取りに参りました」
「明将を連れて行くのか」
忠行は語気を強めた。
最初と話が違うではないか・・この者は都へ置いておくのではなかったか・・・
「兄様 それは違います。桔梗に必要なのは桔晴でございます。
その為今日まで女童のままでお預かり頂きました。」
「ふむ これは桔梗でもあったのだな」
「そのようにお考え下さっても宜しいかと・・」
忠行と保憲の目の前に立っていた女童がニッと笑った。
「それではあまり猶予がございませんのでこれでお別れでございます」
「そなたはいつも刻が無いのだな」
皮肉の一つも言いたくなる忠行であった。
「申し訳ありませぬ。桔梗は最後まで賀茂の家の者でございますれば・・」
女童の姿が二人の目の前で薄くなって行く。
やがてかき消すように姿が消えると青白い光は東へと向かって飛び去って行ったのであった。

「なんとも不思議なことを覚えたものだ」
忠行は光が消え去った東の空を見上げながら一人呟いた
だから女人は恐ろしい・・と思ったかどうかは定かではない。
陰陽師たる者 心の中など誰にも見せない物なのである。


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