大通りより一本入った小路にある古風な建物の一室にいつもと少しだけ違う空気が漂っていた。
廊下に繋がるドアには「洛北探偵事務所」のプレートが重々しく掲げられているのは常と変わらない。
しかし中の空気はいつもの和気が感じられなかった。

大きなテーブルの上には先ほど帰った依頼人が満足げな笑顔と伴に置いていった手土産らしきものが置いてある。
それをじっと見つめる6つの目・・・
「お・・・おはぎですよね。」
ストレートヘアを掻揚げながら節子さんが呟いた。
「・・・でしょうね。」
ワタワタと手を振りながらペンギンが小首を傾げながら応えたが視線はテーブルの上から離れない。

おはぎ、または牡丹餅とも呼ばれる事もあるがもち米を小判型に丸めて小豆餡を纏わせた食べ物である。
しかし今 三人の前にあるのは色鮮やかな色を帯びていた。
「最近は色々と工夫がされているようで・・・こういったものも売られているのだろうな。」
探偵長が一人頷きながらも視線はテーブルの上に釘付けだ。
淡いピンクや真っ白い物・・・明らかに小豆ではない。
「これもおはぎと呼んじゃって良い訳ね。」
思い切ったかのように節子さんが手を伸ばして・・・一番オーソドックスな小豆色のものを手に取った。
「結局それを食べるのですね。」
ペンギンが恨めしげに見上げてきたが節子さんは見なかったことにして齧り付いた。
「美味しいわよ。味は確かなようだわ。」
節子さんの声におずおず・・・ペンギンが白いものに手を伸ばす。
ペチッと探偵長が叩き横取りをして口に運んで「美味い。」と。
しぶしぶ・・とペンギンは淡いピンクのものを口に入れた。
「これはサッパリとして美味しいです。」
ぱちぱちと瞬きをしながらペンギンが興奮気味に言えば他の二人も其々に美味しいと頷いた。
節子さんは急に大胆になって緑色のものに手を伸ばす。
「う~ん!!これは創意工夫と言う事で良いのかしらね。」
いたく満足そうにため息をついた。
「そう言えば・・・。」
ペンギンが何を思い出したのか窓の外へ視線を向ける。
「何か有ったかね。」
探偵長がその視線の先へ目を向けてみるが見慣れた街の風景が見えるだけだ。
「いえ・・前にこの星に来る時に少し資料を見直してきたんですけどね。」
「今回ではなくて前に来たときの事かい?」
探偵長が訝しげに訊ねた。
「京都のお土産と言ったら八橋って憶えてきたのですよね。」
「あらぁ!それは確かにそうだわね。」
節子さんが当たり前だというように応える。
「その時に調べましたら私の星の資料にはマカロニを半分に切ったようなお菓子が載っていました。」
「それだけ?」
「はい それだけでした。」
「それは古すぎるだろう。」 探偵長が呆れたように言った。
「ですから・・・慌てて一度戻ったのです。」
「あぁ!なるほどね。」
探偵長が納得したように頷いた。
「急だったものねぇ。」
節子さんも感慨深げに相槌を打つ。
「今ではもっと色々出来ちゃったわよ。」
「そのようですね。一応画像だけは送っておきました。」
ペンギンが憮然としたように小首を傾げながら応えた。
「あのねぇ。」 探偵長が割って入った。
「君達が言っているのは餡入り八橋の事だよね。」
「あの三角形で真ん中に・・確かに餡が入っていますね。」
頭の中で形を想像しているのか宙に視線を彷徨わせながら節子さんが言う。
「それに・・・本来の八橋はマカロニを切った形じゃぁ形ではなく琴だ。」
「聞いた事があります。星の資料にもそのように載せました。」
ペンギンが何やら手を動かしているのは想像しながら餡入り生八橋を作っているのかも知れない。
「緑とか黒とか色付けされてカラフルになっているわよね。」
「それだけではありません。」
珍しくペンギンが言った。
「クリスマス用とかお正月用など季節に合わせて形も様々ですし彩りも多彩になっています。」
ペンギンの言葉を肯定するように探偵長が何度も頷いている。
「もはや八橋の形は・・・って言えなくなっちゃったわよねぇ。」
ボスッ!!
音を立てて節子さんがソファの背に身体をぶつけて伸びをする。
「まぁ資料はいつも後手に回りますから仕方が無いのですが・・」
ペンギンは短い尾に見える羽を振った。
「ところで知っているかい?」
探偵長が愉快そうに笑いながら言う。
「何をです?」
節子さんとペンギンが期せずして声を合わせた。
「八橋は京都のお土産として名高い。これは二人とも知っているよね。」
「もちろんです。」
「その八橋なんだけどね。」
ここで探偵長は言葉を切って人の悪そうな笑みを浮かべた。
「なんです?」
「実はその八橋・・・・京都人はあまり食べない。」
どうだ!っと言う風に探偵長が言い切った。
「それ資料に残していいものなんですか。」
「地元民に食べられない名物って・・・」
「さぁ?どうなんだろうねぇ。」
探偵長は青海苔の掛かった緑のおはぎに手を伸ばしながら答を濁した。
「京都のイメージを勝手に作ってさもありなんみたいなお土産を買って帰ればクレームは出ないよね。」
探偵長の言葉に節子さんが言った。
「まぁお土産は届けるだけで自分では食べないしね。」
「あぁ!確かに。」
ペンギンは頷き探偵長は笑った。

いつも間にか室内には和気が満ちていた。
穏かな秋の陽射しが窓から室内を照らしている或る日の事であった。

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