「安倍晴明にございます。」

はらはらと舞い落ちる桜の木の下で静かに平伏する姿を見て宴を張っていた殿上人の口から吐息が漏れた。
奥の御簾の後ろにいるであろう姫や女御が手にしている扇を下げた気配が感じられる。

桜の宴を催した主に呼び出されて階の下で深く頭を垂れている。
殿上人に見えているのは透明感のある白い項だけ・・・
その一点に全ての殿上人の視線が集まっている。

「そのように堅苦しい挨拶はやめて貌をあげよ 晴明。」
宴の主が鷹揚に声を掛けた。
声に応えるように晴明がゆるりと貌をあげて唇の端に笑みを刻んだ。

カタン・・・・殿上人の手から杯が落ちる音が相次いだ。
御簾の中で動く衣擦れの音・・・

庶民の貧困には目もくれず毎日雅に宴を張るのは貴族と呼ばれる階級の者達であった。
この宴の度に珍しきものを披露するのが己の権威に繋がるとばかりに皆異国からの織物や珍しい酒など捜し求めてくる。
毎回の事となれば酒も織物も変わり映えがしない・・・・
そこで考え付いたのが人嫌いで有名な晴明を呼びつけることであった。
この都で他の追従を許さぬと噂の陰陽師・・・
地下の者であるに帝の覚えも愛でたくて時折殿上する事さえある。
宮中を一回りする間に恋文が山となり大胆な女房などその裾を引くものさえいるといわれる美貌の持ち主・・
噂ばかりが一人歩きをしているが本人は人前には出たがらぬ。
これこそ珍しきものよっと己の権力で強引に晴明を桜の宴に呼びつけた・・・こういう訳である。

さも官位などは気にしていないと言う風に主は階を降り晴明の座している所まで足を運んだ。
「あのように・・・親しげな間柄なのでございましょうや。」 「いや地下の者の元へ自ら足を運ばれて・・ほれ あのように親しげに・・」
宴に居並ぶ殿上人は扇で口元を隠しながらひそひそと会話を交わした。
主の口が晴明の耳元に近づき何やら囁いている。
薄く笑みを浮かべた晴明が小さく頷くのが見えた。

「このように華やかな宴に地下の者が居りますれば興も削がれましょう。 これにて暇を頂きとう存じます。」
晴明の澄んだ声が耳に心地よく呆ける殿上人・・・中には胸を押さえるものまで出る始末。
はらはらと舞い散る桜の花びらを受けながら美しい笑みを貌に刻んで散り行く桜に溶け込むようにその姿を消した。
その優雅な所作と引き際の鮮やかさに見惚れて口を開いている事さえ気がつかぬ殿上人の面々
御簾の中から扇の落ちる音がした。


          ・・・・・・・・・・・・・・・・処世術・・・・・・・・・・・・

どうもぉ!!晴明ッス
今日のこの宴で仕事の依頼は十個くらい獲得したかなぁ
みんな完全にノックアウトしてやったと思うんだけど・・・どう?

俺が自分の容貌が特別なんだって気がついたのは子供の頃だったんだよね。
兄弟子達が妙に懐いてきて手を触ったり肩を抱いたりするんだ
師匠の屋敷に時々来るキンピカ親父達も繁々と俺を見つめてくるしさ
俺のいる時代は貞操観念もかなり薄いし男が男に・・・って事も珍しくなかった。
だからさ これはきっと仕事の役に立つって思ったんだよね

声を掛けられて簡単に靡いちゃいけないんだ。
落ちそうで落ちない・・気が無い訳でもなさそう・・・この加減が結構難しいんだよ。
おかげで今 俺の仕事発注率はかなり高い。
最近は働きすぎかなぁって・・・
どこかの映画みたいに濡縁で柱に寄りかかって酒でも呑んでいたいよね。

俺だって国家公務員の端くれだから一応陰陽寮には出仕するけど貰える給料なんか微々たる物さ
あんなんじゃ生活できないよ・・
だからさ アルバイトに精を出しちゃうって訳。

おっと・・・ホラッ
またお呼びが来たよ・・・じゃぁね


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