京都は不思議な街である。
長き歴史を極々自然な形で今に伝える。
人々はそれを大仰に構えるでもなく日常の物として接し 嫋やかに微笑む。
懐は何処までも広く深く思いの他に新し物好きでもある。
他所からやって来た物も昔からある物も漣一つ発てずに受け入れる。
そんな京都の街はパリに似通っているとも言えるようだ。
フランスと言う国にありながらパリの人々は自由であり自分達と違うものを拒絶せずありのままに受け入れる風潮があるが京都も日本と言う国にありながら京都と言う独立した人間性が成熟しているように思われる。

そんな訳で街中をペンギンがテトテト・・・歩き回っていてもさして違和感は覚えないようで
「あぁ何処からか他所さんがやってきた。」くらいに考えているようで気にもかけない。

観光客も地元の人も毎日多くの人々が行き交う四条通はお洒落な店が立ち並ぶが一本裏の小路に入れば時を忘れたような洋館が建っていたりするのも新しい物好きの京都の証かもしれない。
一部煉瓦仕様の建物の一部屋が長らく無人になっていたのがここ数日何かと忙しげに音を立てているのを近所の人は耳にしていた。
外壁に蔦でも絡まっていればそのまま何処かの歌のようだと京都の人たちが思っているのかどうかは解らない。
一日に何度もペンギンがテトテト足を動かして出入りしている姿を見かけてもさして気にも留めないのは件の如しであった。


「それにしても・・・こんな建物が良く残っていたものよねぇ。」
部屋に設置されているキッチンを見回しながら感心したように首を振る声の主は節子さん。
歴史は苦手と言いながら京都は好きと言う。 単に王朝文化に憧れているだけかも知れないのだが秘書としての能力は侮れない。
「あれ?ご存知無いのですか?」 事務所として使う空間に置かれたソファの前に立ってなんとなく落ち着かない雰囲気のペンギンが小首を傾げた。
「なにを?」
「明治の頃のことです。 この北側の三条通に競うように洋館が建ったのですよ。大正の世になると四条辺りにも洋館はどんどん建てられましたから今でもいくつか残っているのです。」
「あら?そうなの。京都の文明開化って所かしら。」
二人のやり取りを聞きながら探偵長はきっぱりと言った。
「京都は新しいものにアレルギーは無いようだからね。」

「ところで・・・やっぱり今回もこの関係で行くわけ?」
節子さんは腰に手を当てて二人に視線を向けた。
「さぁ?君はどう思う?」 探偵長は傍らのペンギンに振った。
「私はこのままが気楽で良いです。京都の方たちは特に気にもなさっていないようですし・・」
トテトテ
テーブルの周りを歩きながらペンギンが言う。
「君は?」 探偵長は節子さんに訊ねながら首を向けた。
「私もこれでいいと思うわ。だって新しい設定なんか面倒だわ。」
やれやれ・・・
探偵長は苦笑を浮かべながら溜息を溢した。
「じゃぁ秘書の節子さん。美味しいコーヒーでも淹れないか。」
探偵長は言いながらソファに腰を下ろした。
「了解で~す。これが無いとねぇ先に進まないわよ。この星のコーヒーは優れものよね。」
節子さんは一気に秘書のキャラを纏ってキッチンに向かう。程なくコーヒーの香りが事務所内に広がってくる。
「ところで・・・ペンギンさん。」
「はい?」
「あなたそのスタイルだと今回もソファには座れないわよね。」
節子さんに言われてペンギンと探偵長は顔を見合わせて・・確かにっと頷いた。
「また子供用の階段でも買うか。」
探偵長の声に節子さんがにんまりと笑みを浮かべる。
「秘書でございますからね。抜かりはありません。これ使って下さい。」
言うが早いか節子さんが出してきたのは子供用の椅子であった。
さすがに椅子の前にテーブルは付いていないが背もたれの柄は可愛らしい熊であった。
プッ!!
探偵長が吹き出しペンギンは憮然とした表情で椅子を見詰める。
「これなら一人で座れるしちゃんとテーブルの上のカップも取れるわよ。」
「私は子供では有りませんが・・・」
ペンギンが一人ぶつぶつと呟くと「いいじゃない使い勝手がよければさ。」
節子さんは効率第一主義らしい。
「まぁまぁ 美味しいコーヒーを飲みながら戦略会議と行こうじゃないか。」
探偵長は湯気の立つカップを手に取りながら二人を促した。

京都の街は不思議な所である。
他所さんが大波のように押し寄せ受け入れる人々は当たり前のような顔をして対応をする。
その懐は限りなく深く見渡す限り果てしなく広い。
それでも少し入っただけの小路に静けさが支配する所があることを殆どの観光客は知らない。
そしてその建物の一角で形容しがたい三人が笑いながら談義を凝らしていることは地元の人も気付くことはないのである。

再びこの星のこの街に戻ってきたそれは動きを開始するのであった。





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