タッタッタッタ・・・・・足音が近づいてくる

穏やかな京の朝の事
いつものように英字新聞に目を通していた探偵長の視線がドアに向けられた。
「おっはよーご・・・」元気な挨拶が途切れた。

「しっ失礼いたしました。」申し訳なさそうな声と共にドアが静かに閉じられていく。
小首をかしげながら探偵長はドアに向かって閉じかけたドアを手前に引いた。
廊下にはオロオロとした様子のペンギンが一人。

「どうしたのですか?」訳が解らず探偵長が声をかけるとホッと安堵したようにペンギンの目が探偵長を見上げた。
「あぁ良かった。部屋を間違えたかと思いました。」とペンギンが言う。
「何故?毎日通ってくる部屋を間違えるなぞ無いと思いますが・・・」
探偵長はそう言いながらペンギンを事務所内へと誘った。

「あれ・・です。」
ペンギンが指差す先には昨日までいなかった筈の人間が一人・・・
「あぁ!!」探偵長はやっと納得したように微笑んだ。
「あの人は秘書です。今日から来てもらいました。」
「秘書?ですか」
「まだ仕事が軌道に乗ったと言う訳ではないのでとりあえず人材派遣事務所にお願いして派遣してもらったのですよ。」
探偵長の声にどうやら自分の事が話題になっていると判断したのかペンギンの知らない人間が近寄ってきた。

「高峰悦子と申します。一ヶ月の契約で参りました。」
澄んだその声は耳に心地よく響いて長い髪は窓からの陽射しを浴びてキラッと輝いた。
「あっ!!あぁよろしくお願いします。」
ペコッと頭を下げたペンギンに珈琲を持ってくるため高峰と名乗った人間はキッチンへと向かって去っていった。

いつものようにソファに腰を下ろさせてもらったペンギンはなんとなく落ち着かない気分で朝の珈琲を待った。

「あの・・・」
ペンギンの声が英字新聞の向こう側から聞こえてきた。
「ん?」新聞を外した探偵長の視線の先にはジト目のペンギン・・・
「どうしました?」っと探偵長。
「私では不足であると?いたらないと?」
「はぁ?」
「確かに私は地球の事には疎いです。京都のことも良く解りません。駄目と言われても仕方の無いことですが・・」
「はぁ?」
キッチンのほうで笑いを堪えているのか肩を揺らしている人間が一人・・・
「あのね。」探偵長はチラッとキッチンを見た後ペンギンに言った。
「君は助手だろがぁ!珈琲を入れたりスケジュールを作成したり管理したり・・・そんな事のために助手を雇ったわけではないのだけどね。」
探偵長は人差し指でチョンとペンギンの額を突いた。

キッチンでは堪えきれなくなったのか笑い声が高くなりヒィヒィとお腹を押さえてしゃがみ込んだ人間が一人。
その様子を視線の隅に捉えて探偵長はやれやれ・・・と肩を竦めた。
・・・・もしかして・・・俺って人を見る目が無い?いやいや今回は派遣会社が決めた人間なんだから俺が選んだわけじゃない・・・
しかし・・この御仁は確かに自分が・・・っと目の前にいるペンギンを見下ろした。


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