世界中で日本食がブームになっている。
それに合わせて国内ではブランド野菜が一気に市民権を得た。
かつては狭い地域だけで栽培されていて他の地域では名前も知られていなかった野菜が脚光を浴びて高値で取引されているようだ。

「やっぱり和食が一番かなぁ。」
高峰悦子が誰に言うとも無くつぶやいた。
「和食と日本食ってどう違うのでしょうか?」
ペンギンが小首を傾げて見上げてくる。
「それに・・・」っと探偵長が話題に乗ってきた。
「最近はあちこちで京料理って看板を目にするよね。」
確かにそうだっと他の二人が肯いた。

「前に・・・ホテルの案内の方に美味しい物を予約無で食べられるお店を訊ねたら・・。」
「ペンギンさんってホテルに泊まったことがあるの?」
高峰悦子が驚いたように言った。
・・・・・確かにこの姿でロビーにるって・・どうなんだろうとは思う。
「それで?」 この突っ込みに関わったら話が逸れると判断したのか探偵長は無視してペンギンに先を促した。
「京料理でなくて良いのなら・・・って言われたんです。」
「で?・・・・・」
「はい そのお店に行って見たら湯豆腐とか綺麗に盛り付けられたお弁当とか出て来たんです。」
「なるほど・・・」
探偵長は納得したようだ。
「湯豆腐は京都では有名ですよね。」 ペンギンが言う。

「京料理の定義はかなり曖昧だとは思うんだ。」と探偵長。

今のように交通が発達していなかった時代。
京都には新鮮な海魚が入ってくる事は殆ど無かった。
腐らないように塩をされて運ばれてくる。
京都の夏は鱧料理と言うがこの魚が生命力が強く京都まで生きて届いたからだと言われる。

「京野菜って言うだろう?」探偵長が続ける。
「堀川牛蒡・賀茂茄子・壬生菜・・・・山科や伏見では唐辛子なんかも作られていた。
だけど・・・今でもその土地でこの野菜が作られているか?と言えばこれはかなり難しいよね。」
「確かに・・殆どが住宅地だったり繁華街になっちゃってますね。」 高峰悦子が同意を示す。

「京料理は長い時間の歴史の中で生まれてきた料理なんだと思う。
京都の土地で育った素材を使った料理とすれば厳密な京料理は存在しないっとも言えるなぁ。」 探偵長がちょっと遠い目をした。
「でも・・・京の味は素材だけではないでしょう?」っと高峰悦子。
「そうだね。 丁寧に出汁をとって旨味を引き出す・・これは絶品だと思う。」
「あのう・・・・・」
ペンギンが間に割って入った。
「つまり・・・和食→日本食→京料理・・って段々基準が厳しくなると考えてよいのでしょうか?」
「まぁ かなり大雑把ではあるけれどそんな感じかなぁ。」っと探偵長が微笑んだ。
「ラーメンだって和食だと思われてるようだしね。」っと高峰悦子が言う。

ブームに便乗してかなり妖しげな日本料理の店が世界中に広がっているのは確かな事。

「埼玉で作る九条葱・神奈川で作る賀茂茄子・・・」と高峰悦子。
「これって名義詐称じゃぁ無いんですか?」っとペンギンが訊ねた。
「それだけ基準が曖昧になっているって事なんだろうね。 同じ種を使っても土が変われば味も変わる・・・
本当の京野菜の味を知っている人はどんどん減っているから仕方の無い事なのかも知れないね。」
探偵長の声に寂しさが含まれているように高峰悦子は感じた。

「本当の京野菜を食べてみたいものです。」 ペンギンがポツリと言った。
「そうだね・・」
応じた探偵長は何を考えたのか唇の端に笑みを浮かべた。
その目がキラリン!と光った事をペンギンは知らない。


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